何故、ピロリ菌検査を受けた方がよいのか?
東京ピロリ菌研究室③
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はじめに
そもそも、何故ピロリ菌検査を受けた方がよいのか?
ピロリ菌発見の歴史、胃がんとの関係性などについて解説します。
◎目次
1.ピロリ菌とは
・ピロリ菌の歴史
・ピロリ菌についてわかっていること
・感染経路について
2.胃がんとの関連性について
3.日本での特徴について
4.ピロリ菌の除菌が強く勧められる疾患
5.こんな症状があったら検査をおすすめします
6.まとめ
1.ピロリ菌とは
ピロリ菌の歴史
ピロリ菌(Helicobacter pylori)は、19世紀後半に最初に発見されましたが、その存在は長い間議論の的となりました。以下にピロリ菌の歴史についての概要を示します。
1875年、イタリアの科学者、アメデオ・モダーニョは、胃の病変に関する報告を出版しました。モダーニョは、胃の病変の原因が胃の酸ではなく細菌によるものである可能性を示唆しました。
1892年、ロシアの科学者、イワン・ポツェトゥンは、胃から分離された細菌について最初に報告しました。この細菌は、後に「ポツェトゥン菌」と呼ばれました。
1906年、イギリスの医師、ベリー・マーシャルとロビン・ウォーレンは、慢性胃炎と胃潰瘍の原因となる細菌を特定するための研究を開始しました。彼らは、胃潰瘍の患者から採取した細胞をピロリ菌で培養することに成功しました。
1982年、オーストラリアの研究者、バリー・マーシャルとロビン・ウォーレンは、自分たち自身でピロリ菌を感染させることに成功し、胃潰瘍や胃がんの原因となることを証明しました。彼らは、この発見により、1994年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
ピロリ菌についてわかっていること
現在、ピロリ菌は、胃潰瘍、胃がん、胃炎などの疾患の原因となることが知られています。
ピロリ菌は、胃の内壁に感染して慢性的な炎症を引き起こすことが知られています。「慢性胃炎」→「慢性萎縮性胃炎」と進行します。これを「ピロリ菌感染胃炎」と呼びます。長期的に存在する炎症は、胃がんのリスクを高めることがあります。
日本国内でのピロリ菌感染者は、人口の約35%と以前と比べて低下傾向ではありますが、感染人口は依然として多い疾患です。また、日本でのピロリ菌の感染時期は、2~5歳くらいの乳幼児期が主であり、それ以後の感染は少ないことが報告されています。家族内感染が多いことも分かっています。
感染経路について
詳細な感染経路についてはまだ解明されていませんが、一般的には次のように考えられています。
・汚染された水や食品:ピロリ菌は、汚染された水や食品(特に生の貝やイカ)を通じて感染することがあります。
・常在菌からの感染:ピロリ菌は、動物の消化管や環境中で常在しているため、これらの源から感染する可能性があります。
・口を通じた感染:ピロリ菌は、感染した人が唾液や口腔内の他の分泌物を通じて、別の人に感染することができます。感染した人が食べ物や飲み物を共有すること、夫婦間、キスや性行為をすることで感染する可能性があります。大人から子供に感染する可能性があります。
ピロリ菌の感染経路は複雑であり、感染予防には、適切な衛生と安全な飲料水や食品の確保が重要です。
2.胃がんとの関連性について
ピロリ菌感染は、胃がんの最も一般的な原因の1つと考えられています。
1994年にWHO(世界保健機構)は、ピロリ菌は「確実な発がん因子」と認定しました。これは、タバコやアスベストと同じ分類に入ります。WHOは、ピロリ菌感染が胃がんの発症リスクを2倍以上に増加させる可能性があると報告しています。
しかし、ピロリ菌に感染しているからといって、必ずしも胃がんになるわけではありません。実際、ピロリ菌に感染している人の大部分は、何の問題もなく生活を送っています。
したがって、ピロリ菌感染による胃がんリスクを最小限に抑えるためには、適切な検査や治療を行うことが重要です。ピロリ菌感染に対する治療は、一般的に抗生物質を使用して行われます。治療を受けた後、胃がんのリスクが低下することが報告されています。
胃がんとピロリ菌の関係性を示す多くの研究がありますが、10年間の追跡調査を行った結果、ピロリ菌陽性者の2.9%に胃がんが発見された一方で、陰性者にがんは見られなかったという研究もあります。
3.日本での特徴について
さらに、より詳細な研究で、このピロリ菌が作る発ガン物質の型を調べると、ピロリ菌の種類によってその毒素に強弱があるのではないか、という結果が出てきました。日本人や東洋人は、西洋人に比べて胃がんが多いのは有名な話ですが、これはピロリ菌の毒素の強弱が関係していると考えられるようになってきています。
日本での特徴について、現在までに分かっていることは、
・日本では、胃がんの原因のほとんどがピロリ菌感染であり、ピロリ菌未感染者の胃がんのリスクは極めて低い。
・ピロリ菌感染の有無と胃粘膜萎縮の程度により胃がんのリスクは大きく異なる。そのためピロリ菌の感染検査を早い時期に受けることが望ましい。
・除菌により胃がんのリスクは低下する。
・感染早期の除菌ほど胃がん予防効果は大きい。
・「日本人のピロリ菌は悪性度が高い」可能性がある。
となります。
4.ピロリ菌の除菌が強く勧められる疾患
上述の「ピロリ菌感染胃炎」「胃潰瘍」「十二指腸潰瘍」の他に、
・早期胃がんに対する内視鏡治療後の胃
・胃MALTリンパ腫
・胃過形成性ポリープ
・機能性ディスペプシア(ピロリ菌関連ディスペプシア)
・胃食道逆流症
・免疫性(特発性)血小板減少性紫斑病(ITP)
・鉄欠乏性貧血
などがあります。
5.こんな症状があったら検査をおすすめします
●会社健診や市区町村の健診で、ピロリ菌の血中抗体が陽性になり、ピロリ菌の感染が疑われた人
●胃がんリスク層別化検査(別名「胃がんリスク検診」「ABC検診」)でB群・C群・D群であった人
●家族にピロリ菌陽性の人がいた場合
●胃や十二指腸潰瘍を患ったことのある方
●胃痛・心窩部痛を繰り返している方
●胃ガン家系で心配な場合
上記のような方は、胃カメラとセットで検査(保険適用)を受けることが出来ます。その他、普段からなんとなく胃腸の調子が悪い方なども一度ご相談ください。
6.まとめ
ピロリ菌(Helicobacter pylori)の概要、感染経路、胃がんとの関連性について説明しました。
特に、「ピロリ菌の日本での特徴」については知っておくべき事項です。
血液検査でピロリ菌感染が疑われた人や、上腹部に慢性的な症状がある方、家族にピロリ菌陽性の人がいた場合などはピロリ菌検査を受けることをお勧めします。