ピロリ菌の検査方法
東京ピロリ菌研究室④
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はじめに
このページでは、ピロリ菌の検査方法・感染診断方法について説明します。
◎目次
1.ピロリ菌の感染診断
・感染診断へ
・検査法の種類
2.各論
2-1)侵襲的な検査法
①迅速ウレアーゼ試験
②鏡検法
③培養法
2-2)非侵襲的な検査法
④尿素呼気法(UBT)
⑤抗体測定法
⑥便中抗原法
3.診断の補助
3-1)血清ペプシノゲン(PG)測定
3-2)内視鏡所見(視診)
4.まとめ
1.ピロリ菌の感染診断
感染診断へ
ピロリ菌の感染診断にあたっては、下記の検査法のいずれかを用いる。単独でGold Standardとなる検査がないため、複数の診断法を組み合わせることで感染診断の精度は向上する。それぞれの検査法には長所や短所があるので、その特徴を理解した上で選択する。
検査法の種類
A)内視鏡による生検組織を必要とする検査法(侵襲的検査法)
①迅速ウレアーゼ試験
②鏡検法
③培養法
B)内視鏡による生検組織を必要とする検査法(非侵襲的検査法)
①尿素呼気法(UBT)
②ピロリ菌抗体測定法
・血中抗体
・尿中抗体
③便中ピロリ菌抗原法
表1 主なピロリ菌感染診断法の感度・特異度
診断法 | 感度(%) | 特異度(%) |
---|---|---|
尿素呼気法(UBT)
|
97.7~100 |
97.9~100 |
便中抗原法 除菌前 除菌後 |
96~100 75~90 |
97~100 96~100 |
血中抗体法 除菌前 |
88~100 |
50~100 |
【当院での自費料金表】
・尿素呼気法(UBT):6,000円(税込)
・便中抗原法:6,000円(税込)
・血中抗体法:2,750円(税込)
2.各論
1)侵襲的な検査法
①迅速ウレアーゼ試験
ピロリ菌が有するウレアーゼにより産生されるアンモニアによるpH変化をpH指示薬により検出し、ピロリ菌の存在を間接的に確認する方法
②鏡検法
内視鏡検査にて生検された組織からホルマリン固定組織標本を作成し顕微鏡観察することにより、ピロリ菌の存在を直接に確認する方法である。
③培養法
ピロリ菌の唯一の直接的証明法であり、特異性に優れ、菌株の保存が可能で、菌株のタイピングや抗菌薬の感受性試験などが可能である。
2)非侵襲的な検査法
④尿素呼気法(UBT)
13Cで標識した尿素を内服し、胃内にピロリ菌が存在する場合には、そのウレアーゼ活性によって標識尿素が標識二酸化炭素(13CO2)とアンモニアに分解される。この13CO2が消化管から血中に入り、呼気中に排泄される。この呼気中の二酸化炭素に含まれている13Cの増加率を測定する方法である。本法は非侵襲的、簡便で感度、特異度ともに高い成績が報告されている。除菌判定にも優れ、UBT陰性の場合は除菌成功の信頼性が高いとされている。
フィルムコーティングされた錠剤(13C尿素)を用いることで、口腔内のウレアーゼ産生菌の影響を受けにくく、より精度の高い診断が可能になる。当院でもこの製品を採用している。
⑤抗体測定法
ピロリ菌感染により胃粘膜局所に免疫反応が惹起され抗体が産生される。本法はこの抗体を測定することにより、間接的に感染の有無を診断する方法である。通常、抗ピロリ菌抗体測定は、血清と尿を用いているが、全血あるいは唾液を用いた測定法もある。
・血清抗体は、胃がんリスク診断に用いられているABC検診として、ペプシノゲンとともに測定されるようになった。日本ではEIA法により抗体価が測定されることが多いが、最も使用されることが多いキットでは陰性とはんだんされても抗体価が3 U/ml 以上10 U/ml未満のカットオフ値に近い「陰性高値」例では20%弱の感染者が存在することが明らかになってきており、本陰性高値者では他の検査で感染の有無を確認すべきである。
・尿中ピロリ菌抗体測定法にもEIA法とイムノクロマト法を用いた迅速診断法がある。後者では判定者(医師)によって判断が異なることがあり、注意が必要である。
⑥便中抗原法
胃から消化管を経由して排泄されるピロリ菌由来の抗原を検出するもので、抗体測定とは異なり、直接的に抗原を検出する方法である。初期の検査キットはポリクローナル抗体を使用していたが、現在使用されているキットはモノクローナル抗体を用いたものとなっており、それらは感度・特異度ともに高く、除菌判定時に用いるべき検査として欧米のガイドラインでも推奨されている。
本法では、ピロリ菌の抗原性はcoccoid formの菌体においても保持される。UBTでは陰性となるcoccoid formのケースでも検出可能と考えられる。また、残胃における診断精度が優れていることも利点である。キットによってはPPIの影響を受けにくく、抗ウレアーゼ活性作用のある薬剤を服用中でも抗原検出頻度は高いとされているが、これらについて十分な検討はされていない。
3.診断の補助
1)血清ペプシノゲン(PG)測定
胃炎の大部分はピロリ菌の感染によって起きる。血清ペプシノゲン(PG)測定は、非侵襲的な血液検査であり胃粘膜の炎症状態を反映することから、ピロリ菌感染胃炎をはじめとした胃炎の補助診断が可能である。
PGはペプシンの前駆体であり、大部分は胃液中に分泌されるが、約1%は血液中に流出し、免疫学的にはPGIとPGIIの2種類に大別される。
胃粘膜の炎症によりPGI、PGIIはともに上昇するが、PGIIの増加割合が多いために、PGIとPGIIの比は低下することが知られている。また除菌に成功すると炎症の改善に伴いPGI、PGIIは低下し、PGI/PGII比は上昇することも確認されている。
血清PG値はピロリ菌感染に伴って生じている炎症状態のマーカーであり、ピロリ菌の存在自体を直接診断するマーカーではない。
2)内視鏡所見(視診)
上部消化管内視鏡検査では、胃炎の所見からピロリ菌感染を疑うことができる。
・萎縮
・びまん性発赤
・腺窩上皮過形成ポリープ
・腸上皮化成
・粘膜腫脹
・点状発赤
・RAC(Regular arrangement of collecting venules)の消失
・鳥肌胃炎
などの所見が、ピロリ菌感染胃炎の診断に寄与する。
4.まとめ
基本的なピロリ菌の検査方法・診断方法・費用について解説した。
単独でGold Standardとなる検査がないため、複数の診断法を組み合わせることで感染診断の精度は向上する。それぞれの検査法には長所や短所があるので、臨床の現場では、それらの特徴を念頭に置き、使い分けていくことが重要である。